君 あ り て 幸 福




頭の上は、満天の星空。冬のきん、と澄んだ空気は星をよく見せる。
ふと、遠くの山から鐘の音が聞こえてきた。
簾子に座り、ぼう、としていた昌浩は眼を丸くして、
隣で寝る体勢をとっている物の怪に笑いかける。  

「今年も終わったねーもっくん。」
「なにも変わらんだろ。人間の考えることはよくわからんなあ…」
「まあもっくんは物の怪だからねえ…」
「物の怪いうな晴明の孫っ!!」
「孫いうなっ!!」

怒号をぶつけあってから、半眼で睨みあう。
両者一歩も引かず。
ふと衣擦れの音が近づいてきた。
昌浩が顔を上げると、柱からひょこりと白い顔が現れる。

「昌浩?ここにいたのね。」

にっこりと笑って彰子は歩み寄ってきた。
昌弘は慌てふためいて、立ち上がった。物の怪があくびをして、身をちぢこませる。

「彰子っ風邪引くよっ」
「あら、そうしたら昌浩だって同じだわ。ね、露樹様とお餅ついたのよ。それで、作りすぎちゃって。昌浩食べない?」
「食べるっ」

昌浩は即座に頷いた。餅は大好きだ。
その様子に彰子は嬉しそうに笑って、厨のほうを向いた。
賑やかな声が聞こえてくる。

「いま玄武と太陰も食べてるのよ。青龍と六合は晴明さまと、お酒を召してるわ。」
「…十二神将って物食べれたっけ?」

首をかしげた昌浩の足元で物の怪が起き上がり、大きく伸びをする。

「まあ食えないことはないぞー」
「ふうん…」

感心している昌浩に、物の怪はにんまりとした表情を向けた。

「ということで俺も食うからな。昌浩や、お先ーっ」
「あっ待てもっくんっ!ずるいぞっ」

軽い足取りで駆けて行く物の怪を、昌浩は追いかけようとしたが、
急に両頬になにかがあたり、ぐい、と引っ張られた。

「昌浩っ」
「ぅえっ?!な、なんだよ彰子っ」

両頬に置いてあったのは彰子の手だった。
少々首が痛い…が、目の前に彰子の顔があって、鼓動が跳ね上がった。
それに気付いているのかいないのか、彰子は、頬を寒さで赤く染めながら、微笑んだ。

「あけましておめでとう。昌浩?」
「…ぅ…え?…あっ!あけましておめでとう。」
「よかった。昌浩に一番にあけましておめでとうが言いたかったの。」
「……え…あ、ありがとう…」

顔を真っ赤にしながら、昌浩は照れたように笑った。
まだ心臓は飛び出しそうなくらい暴れまわっている。
彰子はもういちど笑った。

「さ、行きましょ昌浩」
「うん。行こう。」




08.1.1/やっぱり孫と姫はこうでないとvあけましておめでとうございます。絵も小説もフリーですのでよろしければ…v
※サイトへの展示などしただける場合は、サイト名の明記をお願い致します!直リンクはご遠慮ください。